シフのシューベルト

シフを初めて聴いたのは、成人式の振り袖の代わりに行かせて貰った、音大生対象のヨーロッパ旅行の折でした。ウイーンの楽友協会ホールで聴いたシフのシューベルト。長旅の疲れと、演奏の価値の解らぬ若さで、所々ウトウトしてしまった恥ずかしい思い出があります。
その後、長い時を経て、2008年3月10日に来日の折に聴きに行きました。

そして、昨夜!
曲目は、全てシューベルトで、楽興の時D780、即興曲集D899(op90)、3つのピアノ曲D946、即興曲集D935(op142)と、アンコールが2曲でした。

穏やかで温和な風格に満ちた佇まいで、ベーゼンドルファーが据えられた舞台に姿を現して2時間半、東京オペラシティの会場は、至芸で包み込まれました。

どのフレーズをとってみても、新鮮な感興にみち溢れ、喜び、陰影、驚き、哀しみ、慰め、感謝…、多彩な暖かい音色でダイレクトに心の襞に染み渡ります。

非常にデリケートでありながら、時に大胆で、自由で、遊びがありました。
楽興の時の4番など、耳をすまさなければ聴こえない様な美しいpがよどみなく紡がれ、対旋律が強調されていたり、op90-1の装飾音の扱いなど、まるで本当に即興の様に自然で、とにかく、予定されている様に弾かないという新鮮さが常にありました。

ハーモニーの色合いの変化や、寄り添う様に流れ、絡み合う旋律。

op90-2など、軽やかな玉の転がる様なあの有名なメロディーが、あれ程まで愛おしく、陳腐で無く聴こえるのは、シフだからなのでしょう。拍の捉え方、転調の色彩、どこを取っても、研究され尽くしてある真摯なご姿勢の上に、それを超越した世界がどこまでも広がっている「芸術」を感じました。

休憩後、エネルギッシュに現れたシフ。ベーゼンドルファーの深みのある音色と共に、比類ないシューベルトを聴けて本当に幸せです。鯱張った所がないので、全く疲れない、そんな軽やかな演奏は、円熟期の巨匠ならではなのでしょう。

シューベルトのソナタは、「天国的な長さ」と喩えられる事がありますが、昨夜は、ソナタでは無かったですが、音楽の捉え方が、まさにシューベルトであった為、終演は21時半を過ぎてしまうプログラムでした。

プログラムに寄せられた音楽評論家氏のエッセイで、「心してコンディションを整え」いどみたい、という文章がありましたが、まさに、同じ心持ちで、万全の状態で聴きに行った私。今度は、最後まで聴いていたら「帰れない」という事態が待ち受けてしまい、op142−1までしか聴くことが出来なかった事が無念ではありますが、この日の、最高のシューベルトを聴く機会に恵まれた事の感謝は忘れてはならないでしょう。

亡きお母様と義母様への追悼の意が込められているとのリサイタル、万感の祈りが込められていたのかもしれません。

今日は、この楽譜を開いて・・・弾いてみずにはいられませんでした!

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