2016年6月4日
フォーレのバルカローレと神谷美恵子さん
全13曲からなる、フォーレの舟歌(バルカローレ)は、36歳から76歳までの40年間に渡って作曲されています。
このところ、車の中で、よく通して聴いていました。
6番くらいまでは、みずみずしい煌めき、グノー=マスネティックなサロン風の名残りもみせつつ、フォーレにしか出せない香気があり、よく聴いたり、弾いてみたりしていました。
でも、晩年の12番とか13番の味わいも、とても胸に沁みます。
装飾性を一切排除した、その清澄さ、朗らかさは、
色や飾りのない世界へ、これから旅立つことを知っているからなのか、
枯淡の平明さ、あたたかみが滲み出ています。
”末期(まつご)の眼”で見ると、いつもの当たり前に在る風景が、どんなにか美しく映ることか、と想像します。
ふと、神谷美恵子さんの日記(角川文庫)を以前読んだ時のことを思い出しました。
本当にお若い頃から立派なことを考えておられて、あれこれ悩まれた考えの経緯を仔細綴られているものだなと読み進めていくと(25歳〜65歳)、晩年の数年は、日付けも間遠になり、内容も具体的なメモのように簡潔になったと記憶しています。
フォーレのその2曲は、どちらも長調ですが、惜別の明るい調べは、なんとも胸に響きます。
晩年の作品は、耳に心地よいだけでない、拮抗する表情もみられます。推し量ることの出来ない、人の「晩年」を想う時間でした。
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