今シーズン、シフの2公演を聴いて

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3/14に、紀尾井ホールで、シフのバッハ&バルトークのリサイタルを聴いて、ぜひともロマン派のプログラムも聴きたくなり、急遽19日もオペラシティに行って来ました。
前回、2011.2月にも2度行きましたが、また何年後か思うと、聴かずにはいられませんでした。

紀尾井では、バッハ&バルトークという、200年も離れているのに、「息子への教育の観点から曲集を書いた」という共通項のある2人の作曲家を取り上げ、インベンション5曲ずつとバルトークを交互に配置させたり、プログラミングの妙が光っていました。
また、バッハの舞踏的な作品や、バルトークの舞踏性の共通項もあり、シフの大切な(おそらく多くのピアニストに取って)作曲家であるバッハと、ハンガリーというお国の馴染み深いバルトークの組み合わせは、大変興味深いものでした。

アンコールでも、フランス組曲5番や、イタリア協奏曲、平均律1巻1番など、日本人の良く知るものを選んで演奏され、イタリア協奏曲のみ、一楽章だけ抜粋ではありましたが、それ以外全曲通しで、アンコールだからと抜粋を極力しない、真摯な姿勢がそこにも見えました。
音楽に向かうシフは、本当にレパートリーを、心の底から共感し理解して、だからこそ、まるで親密な会話をしているように、あるいは、作曲家そのものがそこで演奏しているような感じを受けます。もちろん、そこに、シフの暖かなお人柄が滲み出て、情があり、けれども感情的に過ぎたりはしない、あれほどの音楽を奏でる方は、どれほど豊かな人間性を持っていることだろうと思います。
バッハでは、いつもながらの高音の温かく美しい響かせ方、バルトークでは、身体から溢れるリズミカルな様子が、とりわけ印象に残っています。
お若い頃、シューベルト弾きだったシフの、レパートリーの広さが伺えました。

19日のメンデルスゾーン&シューマンのリサイタルでは、今度はベーゼンドルファーで、まさに、ドイツロマン派…広義でのドイツロマン主義とは、こういうものを表しているといった、素晴らしい演奏でした。

紀尾井のバッハの時に、神に向かう人のような出で立ちでステージに現れましたが、今回、ロマン派のプログラムでも、その服装でした。そこは前シーズンと違う所。

シューマンが、クララと恋愛中の25歳で書いた「ソナタ1番」が、一番楽しみな演目でしたが、プログラム冒頭の、メンデルスゾーンの「厳格な変奏曲」から、こんなにこの曲は良い曲だったのかと心を掴まれ、豊潤なロマン派の深い感情の世界に入っていき、シューマンソナタでは、激情というより、説得力のある少しゆったりめのテーマの弾き方、積極性と内向性の性格の異なるフレーズ(フロレスタンとオイゼビウス)の、切り替わるときの音色の表現の多彩さ、若々しくみずみずしい息吹を感じ、まるで、シフがシューマンの横顔に重なって見えたほどですshadow.gif

2楽章では、ゾクゾクするほどの美しい旋律にうっとりし、シューマンがこの曲へ託した、クララに対する想いに接しましたconfident.gif。手の届かないものへの憧れとか、拮抗とか、内面が見事に描写されているのは、まさにロマン派の真骨頂。
4つの楽章が、有機的に結びついていることがよくわかりました。

この日も、2人の作曲家の作品は交互に演奏されましたが、休憩後に演奏された、メンデルスゾーンの24歳の時の作品、スコットランドソナタも素敵でした。そして、終わり方の格好良さと言ったら!

交響的練習曲では、フィナーレの祝祭的な高揚感に魅了され、比較的初期のピアノ曲を堪能しながら、人生の終焉でエンデニヒでの病院生活を送らねばならなかったシューマンの精神の患いについて、ふと考えたりしていました。

アンコールは、メンデルスゾーンは無言歌から「甘い思い出」と「紡ぎ歌」、シューマンは「アラベスク」と「幻想曲より第3楽章」バッハのパルティータ4番よりサラバンドでした。

この一夜は、ロマン派の香りに酔いしれた甘い至福の時間となりましたshine.gif

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Filed under: ピアニスト,リサイタル — 11:45 PM
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