中井正子著「ドビュッシーと歩くパリ」
もと生徒さんが、無事にパリ留学をしている事を知り、嬉しい気持ちでその方を想いました。
パリと言えば、パリのコンセルヴァトワールを優秀な成績でおさめられたピアニスト中井正子先生の新刊、「ドビュッシーと歩くパリ」を、年末に読みました。
ドビュッシーの演奏・校訂の第一人者でもあられます。
ご友人の写真家ドラゼー氏の撮影したパリ風景が、旅情と、あたかもそこにいる様な臨場感をかき立てます。
米丸ゆみさんの、可愛らしい地図のイラストもわかりやすいです。
上昇志向の強いドビュッシーが、裕福とは言えない幼年期から、最後は16区の高級住宅街に住むまでを、実際に、一緒に街を歩いて、楽譜を買ったり、音楽院に通ったりしている様な気分でした。
中井正子先生のおすすめのガレット屋さんや、紅茶のお店やカフェなどで、ちょっと一休みしながら、ドビュッシーの軌跡を辿る散策を案内されているかの様な、ワクワクする趣向です。
ご自身の演奏のCDも付いていて、内容と関連の深い19曲が入っています。
端正な、キレのある演奏で、作品を知る事が出来ます。
最後の「炭火の暖かさに照らし出された夕べ」は、ドビュッシー最後のピアノ作品で、初めて聴きました。
上流階級夫人である2度目の妻エンマの、贅沢な暮らしを支えるべく、晩年の生活の困窮から、炭屋の支払いの代わりに預けたという作品です。
前奏曲一巻の「音と香りは夕暮れの大気に漂う」のモティーフの引用が見られます。
ハーモニーに厳しさを増し、苦悩が滲み出ている先に、希望が暖かく照らし出される。
けれどもそれは他の世界に行ってしまっているかの様な、彼岸の希望。そんな感じがします。
読者の私は、実際にパリを旅したのは、6回。
少ないか多いかはわかりませんが、地理を把握したり、自由にメトロやRERで歩き回れる様になるための回数でした。
ガイドブックの様に愉しく、香り高い書籍でした。
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